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あらすじ

超一流ハンターのリュウ(男・20歳)が暮らす葉月島では、最近モンスターをペットとすることが流行っている。
ある夏の夜にブラックキャットという猫科のモンスターと出会い、その半年後には彼女を飼うことに。
誰も愛したことのなかったリュウが、彼女を一心不乱になって愛し、共に生きていく。
だが、揉め事も多々ある中、幸せに暮らしていたリュウにある日突然とても危険なハンターの依頼が舞い込む。
その依頼の内容を知った彼女は、とある行動に出て……。
※主に毒舌キャラによる暴言注意! また、大した表現は出てきませんが続編のHALF☆NYANKOが15禁なので、15禁くらいで。




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第1話 ブラックキャット 1/2



 ハンター歴たった4年目にして、超一流ハンターと呼ばれるようになっていたリュウが彼女と出会ったのは、蒸し暑い夏の夜のことだった。
 除湿ばっちり、冷房のきいた自宅マンション7階のリビングでウィスキーをロックで飲んでいたリュウは、外が騒がしくなっていることに気付いてグラスをガラステーブルの上に置いた。

(また、モンスター狩の輩か)

 最近のここ葉月島では、犬や猫などの小動物の他に、モンスターをペットとすることが流行っていた。
 モンスターを飼うなどと危険極まりないが故に、モンスターを飼うには、普通の人間よりも強い力を持った者だけが取得することができる、ハンターという資格を必要とする。
 また、モンスターを飼えるのはハンターだけだが、捕まえるのは一般人でも可。
 そのため、高値で取引される人気の種族のモンスターを捕まえようとして返り討ちに合い、命を落とす者が後を絶たないでいた。

(それにしても、今日は一段とうるせーな)

 よほど人気の種族のモンスターでも現れたのだろうか。
 リュウがそう思ったとき、テラスに物音がした。

「なんだ…?」

 リュウはソファーから立ち上がると、リビングとテラスを遮る窓へと向かって歩いていった。
 カーテンを開け、いつも鍵をかけていない窓を開ける。
 テラスへと一歩足を踏み入れると、すぐに目に入った。

(女…、ブラックキャットの)

 手擦りの前に、ブラックキャットというモンスターのメスが息を切らしてうずくまっている。

(うるせーわけだ)

 リュウはモンスター狩の輩が必死になっている理由を理解する。
 ブラックキャットは1、2を争う人気種族で、外見は人間に黒猫の耳と尾をつけただけ。
 知能も高く、人間との会話も可能なことから、とにかく人気があった。

「おまえか、追われていたのは」

「――!?」

 そのブラックキャットの彼女がリュウに気付き、顔を上げ牙を剥いてリュウを威嚇する。

(なるほど)

 と、リュウは改めて納得した。

(捕まえたがるわけだ、このブラックキャットを)

 月の光で輝く銀色のガラスのような長い髪、真っ白で細雪のような肌、黄金の大きな瞳、繊細な顔立ち、外見年齢は18歳から20歳といったところだろうか。
 幾多のモンスターを見てきたリュウでさえ初めて見るほどの、美しいブラックキャットだった。
 彼女を捕まえて売れば、どんな貧乏でも一瞬にて大金持ちだ。

「来るな!」と、彼女が声を張り上げる。「こっちへ来るな! 来る…な……!」

 彼女の瞼がだんだんと閉じていき、彼女はその場に気を失った。

 リュウが彼女に近寄って見ると、小柄な彼女の身体には麻酔銃の針が多数刺さっていた。
 彼女を抱き上げ、室内へと戻る。
 リュウにとっては、人間の赤子どころか子猫一匹分の重さほどしか感じなかった。
 彼女の身体に刺さっている針を全て抜き、治癒魔法で外傷を治療し、寝室のベッドに寝かせる。
 麻酔が効いているせいで、きっとしばらくは目を覚まさないだろう。

 リュウは仕方なくリビングのソファーで眠ることにして、寝室を後にした。

「モンスターのペット……か」

 なんて少し興味を持って呟いた2秒後、リュウは夢の中へと誘われていった。
 ハンターの仕事は、決して楽なものじゃない。
 
 
 
 翌朝、リュウはリビングのソファーで目を覚ました。
 まだ重い瞼を閉じたまま口を開く。
 そろそろとテラスの方へと歩いていく彼女へと向かって。

「おい」

 彼女が驚いて、ぴょんと飛び跳ねたのが分かった。

「気をつけて帰れよ」と、リュウは続けた。「まだおまえを狙ってる輩がいるかもしれねーからよ」

「……」

 彼女はテラスから帰っていった。

 その晩のこと。
 リュウが仕事から帰宅すると、リビングの窓が開いていた。

(泥棒…?)

 そんなことを思って、いつもリビングの窓の鍵を閉めていないことを少し後悔しつつ、リュウは全室内を見て回った。
 だが、一切荒らされた気配はなし。
 再びリビングに戻り、窓を閉めようとしたときに気付く。
 風でひらひらと揺れているカーテンで、床に見え隠れしているものがある。

 リュウは眉を寄せてしゃがみ、それが何か確認した。

「……。礼のつもりだろうか、これ…」

 そこには、一匹のネズミの死骸。
 リュウはテラスに誰もいないことを確認してから、窓を閉めた。
 やっぱり鍵はかけないでおくことにした。



 それから3日。
 風呂上りにビールを飲もうと、冷蔵庫から缶を取り出しソファーに座った途端、緊急の仕事の電話が入ったリュウは、ビールの缶をガラステーブルの上に置きっぱなしにして家を飛び出した。
 2時間後に帰宅すると、またもやリビングのカーテンが風に吹かれて揺れている。

(あのブラックキャット、また来たのか)

 そう察しながら、リュウがふとガラステーブルの上に目をやると、そこには開けていないはずのビールの缶が開いている。
 おまけに空っぽ。
 開いている窓付近の床に顔を向けると、そこにはまたもやネズミの死骸。
 しかも、今度は3匹だ。

「……。礼のつもりか、やっぱ」

 次の日からリュウは、仕事へ行く前に何かしら飲食物をガラステーブルの上に置いていってみることにした。
 といっても、食事は外食で済ませるリュウの冷蔵庫には酒と水しか入っていないが。

 ビールを1缶置いていくと、ネズミが3匹。
 焼酎をグラス一杯置いていくと、ネズミが1匹。
 ウィスキーをグラス一杯置いていくと、ネズミが2匹。
 ワインをグラス一杯置いていくと、ネズミが1匹とネズミの尻尾が1本。
 水をコップ一杯置いていくと、何もなし。
 ビールを2缶置いていくと、ネズミが6匹。

 と、色々試した結果、彼女はビールが好きなようだった。

 それが分かった日から、リュウは仕事へ行く前にはガラステーブルの上に必ずビールを置いて行くようになった。

「しっかし……」とリュウは、揺れているカーテンを見ながら呟く。「臆病な猫だな」

 季節はもうすっかり秋。
 あれから彼女がリュウに姿を見せることはない。
 今日は仕事が早く終わって昼過ぎに帰ってきたのに、彼女はもう出て行ってしまったようだった。

(無事なようだからいいが)

 彼女がこうしてビールを飲みに来て、ネズミの死骸を置いていくということは、彼女が人間に捕まっていない証拠となっていた。

第1話 ブラックキャット 2/2

 リュウがネズミの死骸を片付けていると、インターホンが3回連続で鳴った。
 そのあと1秒置いて、インターホンが鳴り続ける。
 こんな迷惑な鳴らし方をするのは、リュウが知っている人物の中でただ1人。
 リュウはどかどかと足音を立てながら玄関へと向かい、相手の顔面にぶつける勢いでドアを開ける。

「うるせーんだよ、てめーは」

「いっよーう! さっきぶりやな、リュウ!」

 ひょいとドアを交わして顔を覗かせたのは、リュウの予想通りの男。
 名をリンクという。
 リュウのハンターの同期、つまり仕事の同期で、年齢も20歳とリュウと同い年。 長身・黒髪・落ち着いたイメージを持たれるリュウとは裏腹に、明るい金髪に童顔なリンクは15、6歳に見られることも少なくない。
 生まれ故郷の訛り口調は、ハンターになるために葉月島へやってきて、4年経った今でもあまり抜けないようだった。

「今日は仕事早く終わったし、軽く飲まへん?」

 なんて言って、リンクはリュウの承諾を得る前に中へと入っていく。
 仕方ないと溜め息を吐いて、リュウはリンクの後を追ってリビングへと向かった。
 リンクは両手にビニール袋をぶら下げていて、その中身は酒とつまみ、それから1冊の雑誌。

「こんなの売られ始めたのか」

 その雑誌は『NYANKO』という、猫科モンスターの専門雑誌だった。
 ぺらぺらと雑誌をめくって大まかに中身を見ると、猫科モンスターの紹介の他に、猫科モンスター用のファッションや、ペットの印として必ずつけなければいけない首輪のカタログが載っている。

「可愛いよなー、猫モンスター」と、リンクが缶チューハイの缶を開け、リュウから雑誌を取って言う。「おれ、最近ほしくて仕方あらへんねん。ブラックキャットとか、ホワイトキャットとかの、人間に近いやつ。あ、もちろん女の子で」

「おまえが言うと下心丸出しだな」

「うっさいわ」とリンクが唇を尖らせた。「リュウにはもてへん男の気持ちが分からんのや。ええよなー、リュウは。女の子にきゃーきゃー言われて。めっさ無愛想やのに」

「うるせーよ」

それに、とリンクが続ける。

「エッチしたくて飼ったってええやないかい。ブラックキャットとかホワイトキャットとか、飼い主の愛情めっさ与えてやらんと家出すんねんで? おれの知り合いハンターが言っとった。恋人作ったらペットのホワイトキャットが家出して、捜索願出して3ヶ月後にようやく見つかったんやけど、帰りたくないってごっつ抵抗するもんやから、仕方なく彼女と別れたら、ようやく戻ってきてくれたんやって」

「ふーん。ホワイトキャットやブラックキャットを飼うってことは、一生女を作れないってことを覚悟……っていうことだな、リンク」

「う……」リンクの顔が引きつる。「も…もう少し考えてからにしよかな……」

 そうしておけと頷いて同意し、リュウは溜め息を吐いた。

「女が寄ってきたら浮かれて片っぱしから受け入れそーなおまえには向かねーよ。それに、ブラックキャットもホワイトキャットも一見人間みてーだが、最強モンスターの一種だってことを忘れんな」

 そのことを完全に忘れていたリンクは、思わず顔面蒼白してしまう。

「せや、ブラックキャットもホワイトキャットも最強モンスターやん! 喧嘩になったらおれが殺されるやん! そんなん、超一流ハンターしか飼えへんやん!」

「俺みたいな」

「自分で言うなっ、むかつく」

「事実だ」さらりと言い切りながら、リュウはリンクの手から雑誌を奪い返した。「おまえ、もうこれいらねー?」

「ああ…、いらんわ」

「じゃー貰う」

「え、なんでやねん」と、リンクが首をかしげる。「猫モンスター、飼う気なん?」

「見るだけ」

「ふーん? …あ、テレビゲームやってええ?」

「おう」

 リンクがテレビゲームを始める傍ら、リュウは『NYANKO』を表紙から最後まで1ページずつ目を通しながらめくっていった。



 今日仕事へ行く前、リュウはガラステーブルの上にいつものようにビールの缶と、それから『NYANKO』を置いていった。
 『NYANKO』を彼女が読む気がして。

 案の定、リュウが仕事から帰ってくると『NYANKO』のページが開かれていた。
 窓辺のネズミの死骸と空になったビールの缶を片付けたあと、リュウはソファーに座って開かれているそのページを見つめる。
 そこには、これから迎える冬用の白いコートが載っていた。

(似合いそうだな)

 まだ一度しか目にしたことのない彼女の姿を思い浮かべながら、リュウはそのコートが売られている店へと電話をした。
 
 
 
   3日後。
 届いた白いコートを、ガラステーブルの上にビールと共に置き、リュウは仕事へと向かった。
 帰ってきてリビングの窓辺を見たリュウは、思わずぎょっとしてしまう。

「そ、想像はしていたが……」

 そこにはネズミの死骸の山。
 テーブルの上に置いておいた白いコートがなくなってることから、これはきっとその礼。
 彼女はよっぽど嬉しかったようだった。

 そして今度は、ブーツが乗っているページが開かれていた。
 その次はスカート、そのまた次はショートパンツ、そのまたまた次は……etc

 そんなことをやっているうちに、月刊『NYANKO』は3冊に増え、新年を迎えた。
 正月といっても超一流ハンターのリュウは忙しく、普段と変わらない日々を過ごしていた。
 そんな何のお目出度さも感じられる暇なく新年を迎えて半月、リュウが仕事から帰宅すると、ガラステーブルの上にいつものように『NYANKO』が開いて置かれていた。
 ソファーに寝転がって、『NYANKO』を手に取り、その開かれているページを見てみる。

「首輪…」

 赤い首輪のページ。
 ペットの証となる、首輪のページ。
 その意味を彼女は知っているのか、知っていないのか。
 リュウの胸が感じたことのない動悸を上げる。
 リュウはソファーから半ば転げ落ちながら、放り投げておいた携帯電話を手に取った。
 
 
 
 首輪が届いたのは3日後。
 でも、リュウは10日くらいかかったように感じられた。
 ガラステーブルの上に首輪とビールの缶を置き、リュウは仕事へと向かった。

(いるのか、いないのか)

 本日の仕事を終えたリュウは、自宅のドアノブを握ってごくりと唾を飲み込む。
 期待か、不安か、そのどちらもか、今朝家を出たときから胸が動悸を上げたまま静まらない。
 こんな感情にさせられたのは、生まれて初めてのことだった。

(いるのか、いないのか)

 ドアノブを捻り、ドアを開け、靴を脱ぎ、リビングへと続く廊下を歩いていく。

(いるのか、いないのか)

 廊下とリビングを遮っているドアの手前、一度立ち止まったリュウ。

(頼む)

 と目線の先のドアノブを握り、

(いてくれ)

 そう願いながら、ドアを開けた。
 その瞬間、小さく息を飲む。

「い…た……!」

 暗いリビングのソファーの上、開けられたカーテンから差し込む月明かりで映されている。
 ブーツを脱ぎ捨て、コートを脱ぎ捨て、赤い首輪をした一匹のブラックキャット――彼女が、横臥して眠っている姿が。

(俺の……)

 電気をつけるのも忘れて彼女に歩み寄りながら、リュウの動悸が増していく。

(俺の猫……)

 リュウが彼女のガラスのような髪の毛にそっと指を通すと、彼女はゆっくりと瞼を開けていった。
 彼女のその大きな黄金の瞳が、リュウの黒々とした瞳を捕らえる。
「俺はリュウ。……おまえは?」

「……キラ」

「そうか…、キラか」リュウの手が彼女の、キラの赤い首輪に触れた。「本当に……、いいんだな?」

 キラが頷いて、リュウの首にしがみ付く。

「そうか…、俺の猫か」

 リュウの唇が、キラの唇に重なった。

 キラのこのガラスのような髪も、黒猫の耳と尾も、白い肌も、大きな黄金の瞳も、華奢な手足も、豊かな胸も、細い腰も、冷たい爪先も、リュウは全て愛した。
 いつからこの猫を欲していたのか、堰を切ったようにキラの全てを奪った。

 キラと出会ってから半年。
 雪がちらほらと舞い散る、冬の夜のことだった。
 
 
 
 
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第2話 ホワイトキャット 1/2



「ホワイトキャットやブラックキャットは、自由奔放で自己中心的。特にその傾向の強いメスは馴らすまでに時間を要するけど、主と認めた相手にはとっても甘えん坊☆ そんなコケティッシュなNYANKOをあなたも飼ってみませんか?」

 と、今月号の『NYANKO』の特集記事を読みながら、悶えているのはリンクだ。
 リュウの部屋のリビングのソファーの上で、じたばたと大暴れ。

「飼いたいわあああああああ!!」

 リンクがキラを初めて見て、あまりの美しさに失神したのは1ヶ月前のこと。
 それから迷惑なくらい遊びに来るリンクに、リュウは溜め息を吐いて言う。

「うるせーな、静かにしろよ。諦めたんじゃなかったのかよ」

「やっぱり飼いたい飼いたい飼いたいぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「うるせーつってんだろ。……ああ、ほら、起こしちまった」

 リュウが言いながら、膝枕で眠りから覚めたキラの頭を撫でた。
 キラが手の甲で瞼を擦る姿に、リンクが再び悶える。

「もっ、萌えぇぇぇぇぇぇ……!」

 キラが伸びをして身体を起こし、リュウの膝の上に座って、寝ぼけ眼を向かいのソファーに座っているリンクに向けた。

「来てたのか、リンク」

「う、うん。起こしてごめんなっ」リンクが頬を染めながら、持ってきたビニール袋を掲げた。「土産持ってきたで、キラ。ほら、ビール」

 ガラステーブルの上にどーんと1リットルのビールの缶を置かれ、キラが笑顔になる。

「ありがとう」

「かっ、かっ、かっ、可愛い……!!」

 鼻から流血寸前のリンクに、リュウは再び溜め息を吐いて言った。

「アホ面してねーで、さっさと続きを読め」

「アホ面言うなっ」リンクは突っ込んだあと、再び『NYANKO』のホワイトキャット&ブラックキャット特集に目を落とした。「えーと、続きは――」

「特殊能力のとこだけでいい、ブラックキャットの」

 と、リュウがリンクの言葉を遮った。
 リンクは言われた通り、ブラックキャットの特殊能力について書かれているところを見つけて口を開いた。

「ブラックキャットは闇属性のモンスターなので、闇魔術を使います。ですが、ほとんどの場合は鋭い爪を利用して戦うことが多く、その魔法を目にしたことがある人は少ないでしょう。……やって。たしかに言われてみれば、ブラックキャットが魔法使うの見たことあらへんな」

「続きは」

 リュウに急かされ、リンクは続ける。

「ブラックキャットの魔法を見たことがある人が少ない理由の一つとしては、ブラックキャットの魔法を見た瞬間に死んでしまうからです。光魔法を多数持っているホワイトキャットとは裏腹に、ブラックキャットの魔法は1つしかないと言われており、その魔法は広範囲を滅ぼしてしまうほど強力なのです。普通の人々はおろか、ハンターさえ消滅してしまうでしょう。……って」リンクが青ざめた。「ほ、ほんまっ? ほんまの情報なんか、これっ?」

「過言ではない」キラが言った。「私たち…人間がいうブラックキャットは、いざというときにしか魔法を使わない。自分の身も危ないからだ。魔力があればあるほど、己の身も滅ぼすことになる。破滅の呪文だ」

「ふーん……。じゃあ、おまえは一生その魔法を使うことはないな」

 と、リュウ。

「せやろなあ」

 リンクは同意した。
 だって、リュウがキラをそんな危ない状況にさせるわけがないから。
 リンクの知っているリュウは、無愛想で無表情で、ハンターの中でもずば抜けて強くて、仕事以外のときはなるべく1人でいることを好む一匹狼のような男だった。
 それが、約一ヶ月前から変わった。
 キラを飼い始めてから、リュウが変わった。
 あれだけ無愛想で無表情だったのに、キラといるときは、柄にもなく時々優しく微笑む。
 優しい声で、キラに話しかける。
 キラを守るためか、力は以前に増して、まるでバケモノ並の強さになった。
 仕事にキラを連れて行ったときは、必ずキラを後方に下がらせて戦闘の流れ弾を食らわせないようにし、キラを留守番させているときは3時間かかりそうな仕事でも30分で終わらせて帰路へと着く。
 あれだけ一匹狼でいることを好んだのに、キラを飼ってからは専らキラと2人でいることを好むようになっていた。

(リュウ、幸せそうやな)そんなことを思って、微笑んだリンク。(……でも)

 瞬時に笑顔が消えた。

「真昼間から始めんなやっ!!」

 顔を真っ赤にして突っ込む。
 リュウが突然、キラをソファーに押し倒したものだから。
 リュウの鋭い瞳がリンクの顔を捉える。

「うるせーな、しばらくやってねーんだからやらせろよ。早く帰れ」

「しばらくって、いつからやねん」

「今朝」

「……どついてええか」

「やってみろ」

「ゴメンナサイ」

 リンクは冷や汗をかきそうになりながら立ち上がった。
 玄関へと向かっていくリンクに、リュウが振り返って言う。

「あ、おい、リンク。買い物してきて」

「? なんやねん」

「ゴム切れそう」

「ゴム?」リンクは一瞬眉を寄せた。「ああ…、コンドームな。まったくもう……、そこのコンビニで買ってくるから待っててや」

「いや、そこのコンビニじゃ売ってねーから3丁目のドラックストアまで行ってきて」

「ゴムにこだわりあんのかい」

「サイズがねーんだよ」

「サイズ……」鸚鵡返しに呟いたあと、リンクはにやりと笑った。「ははーん……、おまえ実は、Sサイズやな? かわええとこもあるやないかい。あっはっはっは――」

「いや、特大」

「……」

「早く行って来い。1ダースな」

「…イッテキマス」

 リュウから投げ渡された車の鍵を受け取り、リンクはリュウの部屋を後にした。
 
 
 
 葉月島葉月町3丁目のドラッグストアの駐車場にリュウの車を停めたリンクは、数分前から鳴っている携帯電話を手に取った。

「はいはい、リンクやけどー」

 相手は葉月町ギルドのギルド長だった。

「やっと通じたか、リンク」

「おー、ごめん、ギルド長。車運転しとったん。ほいで、どうしたん?」

「緊急の仕事だっていうのに、リュウの携帯に繋がらないんだよ」

「あー……」リンクは苦笑した。「今、たぶん真っ最中やから……」

「真っ最中って、何のだい」

「いや、何でも」リンクは咳払いをして、話を戻した。「緊急の仕事って、おれも? リュウだけなん?」

「いや、リンクも頼むよ。葉月島の一流ハンターと超一流ハンター総出の、大仕事だ」

「うわ、ほんま?」

「ああ。至急向かってくれ。場所はオリーブ山の麓だ。メスのホワイトキャットが、大暴れしているんだ」

「やっ……、やばいやないかああああああい!!」

 リンクはリュウから頼まれた物を買わずに、車のエンジンをかけなおした。
 警察に見つからないことを祈りながら、見るからにスピード違反でリュウのマンションへと戻る。
 車から飛び降りて、ゆっくり可動しているエレベーターに乗らずに階段を7階まで駆け上がり、廊下を端まで走ってリュウの部屋の前で急停止。
 玄関の扉を蹴り開け、鍵が閉まっている寝室の扉をどんどんと叩く。

「リュウ! 緊急の仕事や!」

「知ってる。ついさっき、ギルド長から電話が来た」寝室の中から、リュウの落ち着いた声が聞こえた。「準備できてんのか、リンク」

「あっ、剣ないわ」

「だと思った」リュウの呆れたような声が聞こえたあと、寝室のドアが開いた。「ほら、貸してやる」

 リュウに剣を渡されながら、リンクは目の前に仕事へ行く準備万端で並んでいるリュウとキラの顔を交互に見た。

「なんや、エッチしてたんちゃうんかい」

「これからってときに、ギルド長から家の留守電にメッセージが入ったんだよ」

「そらお気の毒に……」と苦笑したあと、リンクはキラの顔を見た。「てか、キラも行くん? ブラックキャットとホワイトキャットって、仲悪いんやろ?」

「ああ、虫唾が走るな」

 と、キラ。
 それならどうして、とリンクに疑問を投げかけられる前に、キラが玄関に向かいならがら言う。

「早く行こう、リュウ」

 一番真っ先に玄関を出て行くキラ。それを追うリュウに、リンクも続いた。
 
 
 
 リュウ一行がオリーブ山の麓に着くと、葉月島に住んでいるだろう全一流ハンターと全超一流ハンターたちが集まっていた。

「どんな様子すか」

 そうリュウが声を発した途端、群がっていたハンターたちがリュウの前に一本の道を作った。
 リュウよりも先にキラがその道を歩いていく中、ハンターたちが言葉を発する。

「リュウさん、それがもう、凶暴なホワイトキャットで」

「手に負えそうにありません」

「危険すぎるが故に、もう殺すしか……」

 ホワイトキャットを――モンスターを殺す。
 そんな言葉を、キラがあっさりと承諾するわけがなかった。

「おい、人間ども。下がっていろ」

 キラが群がっているハンターたちを睨んで言った。
 リュウとリンクを除いたハンターたちが後方へと下がると、キラは顔を戻した。
 目の前5メートル先にいる、ホワイトキャットに目をやる。

「……まだ、子供ではないか」

 キラは呟いた。
 ハンターたちが囲んでいたホワイトキャットは、外見年齢10歳から12歳の少女で。

第2話 ホワイトキャット 2/2

 人間に追い詰められ牙を剥いていたその少女が、キラの姿を見て目を丸くした。

「黒いの…、純粋な……?」

 少女の言う『黒いの』とはブラックキャットのことで、『純粋』とは、野生で育ったことを意味していた。

「ああ、そうだ」

 キラが同意すると、彼女は数秒驚いたあとに声を張り上げた。

「お、おまえ、人間なんぞに心を許したのか! わたしたちと同様、誇り高きブラックキャットとあろうものが……!」

「人間に心を許したわけではない」冷静な様子で、キラが言う。「私は人間が嫌いだ。だが、リュウという人間を愛した。主に選んだ。それは事実に変わりはない。だから人間に心を許したと思われても、仕方がないのかもしれないが」

「この、恥さらしがぁ!!」

 少女が光魔法を放った。
 だが、それはキラへと到達する前にあっさりと消される。
 リュウの一振りの剣で。

「おいっ、キラ! 大丈夫か!?」

 狼狽して振り返ったリュウに、リンクは苦笑しながら言う。

「かすり傷1つあらへんて」

 その過保護っぷり何とかならないものかとリンクが呆れていると、キラがリュウの傍らに並んだ。

「大丈夫だ、リュウ。この白いのの魔法程度では、私は傷を負わない」

「そうか……」

「リュウも下がっていて」

 なんてキラに言われて、リュウはしぶしぶ後方へと下がった。
 それを横目に確認したあと、キラは少女に向かって再び口を開いた。

「おい、白いの。おまえは何故、人間を襲った」

「人間がわたしの住んでいる山へと押しかけ、わたしを捕まえようとしたからだ!」

「やはり……な」キラは、少女の身体に数箇所刺さっている麻酔銃の針を確認した。「私のときと同じだ」

「何……」と、少女が少し目を大きくした。「黒いのも、追われていたのか。それで捕まって売られたのか」

「まさか。人間に捕まって売られるのはごめんだ。あそこに立っているリュウという良い男に」と、キラが顔をリュウに向けた。「助けられてな」

 少女がキラの目線を追って訊く。

「黒い髪と黄色い髪の、どっちだ」

「良い男と言ってるではないか」

「じゃあ黒い髪の方か」

「当たり前だ。黄色い髪はリンクといって、リュウのシモベのような仕事仲間……いや、リュウの仕事仲間のようなシモベか?」

 そんな猫同士の会話を聞いて、リンクは涙目だ。

「どっ、どーせおれなんかっ…おれなんかっ……」

 キラと少女が会話を続ける。

「白いの、知っているか」

「何をだ、黒いの」

「人間によっては、飼われるのも悪くないぞ。私はリュウを主にして幸せだ」

「まあ…」少女が一瞬リュウに目を向けた。「それは少し納得だ。男は見目ではないと思うが、それでも少し納得だ」

「リュウは見目だけではない。人間とは思えないほど強く、私が欲するものは何だって与えてくれるのだぞ」

「ほお」少女が声を高くした。「何でもか」

「何でもだ。食い物も着物も玩具も、心も身体もだ」

「身体もって?」

 と、きょとんとした顔で訊く少女から顔を逸らし、キラは咳払いをして話を続ける。

「おまえにはまだ早かったな。……見よ、白いのよ」と、キラはベルトからぶら下げている袋の中から、ビールの缶を取り出した。「うまいのだぞ、これ。知っているか? ビールというものなのだが」

「知らない。なんだ、それ」少女が鼻をくんくんとさせた。「えらくうまいのか?」

「ああ、えらくうまいのだ」キラがビールの缶を開ける。「じゅるる……ああ、いかん、涎が……」

「……くっ、くれっ!」

 キラの様子を見た少女が、溜まらずといったようにキラに飛びついた。
 興奮してビールの缶を奪う。

「ごくごく……ん!? なっ、なっ、なんっ、なんだ、これはっ……!? う、うますぎるぞ! ごくごくごくごくごく……ぷはぁーっ。た、たまらん!」

 少女があっという間にビールを飲み干す。
 キラは少女の身体から麻酔銃の針を抜いてやりながら続けた。

「ビールはうまいだろう、白いの」

「ああ、うまいぞ、黒いの。もう一本くれっ」

「これは人間から与えてもらうものだ、白いの。……おまえ、名は何という?」

「ミーナだ。黒いの、おまえは何という?」

「私はキラだ。いいか、ミーナ。よく聞け」

 キラが真剣な顔になると、ミーナも頷いて真剣な顔になった。

「よく聞くぞ、キラ」

「ミーナ、おまえはもう、人間から逃れられない。何人か殺しただろう、人間を」

「当たり前だ」

「そうだ、私たちから言わせれば当たり前のことだ。正当防衛っていうやつだ。だが、人間共は勝手なことに、おまえをもう殺そうと考えている」

「何だと……!?」

 ミーナが、後方に下がってこちらの様子を窺っているハンターたちに向かって牙を剥いた。
 キラがミーナの頭を掴んでくるりと自分の方に向かせ、小声になって話を続ける。

「1つだけ、殺されない方法があるのだが」

 キラに合わせて、ミーナも小声になる。

「それは何だ、キラ」

「人間の主を作ることだ」

「な、何!?」ミーナが驚愕の顔をしてミラを見た。「わ、わたしに人間のペットになれというのか!?」

「そうだ。それしかない。ペットになり、その証となる首輪をつければ、奴ら人間共はおまえを殺せない」

「で、でも……」

 ミーナの瞳が困惑した。
 キラは小声のまま続ける。

「ミーナ、人間は誰もがゲスではない。リュウを主に持ち、野生の頃よりもずっと幸せな私がその証拠だ。うまいビールだって、リュウが与えてくれたものだ」

「そ、そうか……」

「そうだ。どうだ、人間を主に持つ気になったか」

「なったぞ、キラ」ミーナの瞳が輝いた。「わたしも、リュウを主に持つぞ!」

「おま……」

 ゴスッ☆

 突然キラに拳骨され、ミーナが頭を抱えて涙目になる。

「なっ、何をするのだ、キラっ」

「リュウは私だけの主だ」

「じゃあ、どの人間のペットになれというのだ!」

「アレだ」と、キラが向けた目線の先には、「リンク」

「は……?」

 ミーナがリンクの顔を見て眉を寄せる一方、キラが続ける。

「リンクはずっと私たちのような猫をほしがっていてな。……何、大丈夫だ。奴は絶対に大切にしてくれる。だからミーナはリンクのペットに――」

「まっ、待て待て待て!」ミーナが慌てたようにキラの言葉を遮った。「キラばっかりずるいではないか!」

「何がだ」

「何でキラはあれほどの良い男で、何でわたしはあの見るからにバカそうでガキっぽくて頼りなさそうな男なのだ!?」

「おまえも似たようなものだろうから、ちょうど良いではないか」

「なっ、何だと!? いっ、嫌だ! わたしはあんな男を主になんてしたくな――」

「ミーナ」キラがミーナの言葉を遮った。「おまえ、私のビール飲んだだろう? 私の言うことが聞けないと言うのか?」

「――!?」

 キラの鋭く光る爪に、ミーナは顔面蒼白した。
 出会ったときから気付いていたが、このキラという猫には、とてもじゃないが力なんて及ばない。
 成長して大人になっても、敵う日は来ないだろう。
 ここで抵抗した場合を考えると、ミーナは膝が震えそうだった。

「わ、わ、わ、分かった。あの男のペットで良い……」

「よし、良い子だな」

 キラがにっこりと笑ってミーナの頭を撫で、手を引いてリュウとリンクの元へと戻っていった。
 リュウとリンクの後ろに群がっているハンターたちを睨みつけ、キラは言う。

「この白いのは、リンクのペットとなった。失せろ」

 ハンターたちがどよめいた。
 キラの発言に一番驚いたのは、もちろんリンクである。

「へっ? 何っ? どゆことやっ?」

「良かったな、リンク」と、リュウは驚いた様子なくリンクの肩を叩く。「念願のホワイトキャットだぜ。まだ子供だし、おまえでも大丈夫だろ。でも手を出すのは大人になってからにしろよ」

「えっ、いやっ、ちょっ……?」

 困惑しているリンクの傍ら、キラはハンターたちを睨みつけてもう一度言う。

「失せろと言っているのが、聞こえないのか」

 時にはギルド長でさえ従い、泣く子も黙るリュウの愛猫であるキラに言われては、ハンターたちは抵抗することができず。
 群がっていたハンターたちが去っていくと、キラは安堵の溜め息を吐いた。
 これでミーナは、人間に狙われることはない。

「そ、それで……」と、リンクがキラの顔を見て訊く。「えと…、おれのペットになるん? そのホワイトキャットの可愛い子がっ……?」

「ああ、そうだ」と、キラが背に隠れているミーナを引っ張り出した。「名前はミーナ。大切にしてやってくれ。ほら、ミーナ。おまえの主のリンクだ」

 キラに背を押され、ミーナは目の前のリンクの顔を見上げた。

「……。わ、わたしやっぱりリュウの方が――」

 ゴスッ☆

 再びキラの拳骨を食らい、ミーナは頭を抱えてうずくまる。

「なっ、なんてことすんねんっ、キラっ! ミーナ、大丈夫かっ……?」

 リンクが慌ててミーナの頭を撫でる。
 ミーナはリンクの顔を見た。
 とても心配そうな顔をして、キラに殴られたところを必死に撫でている。
 ミーナはリンクから顔を逸らした。

「……。これくらい平気だ」

「そ、そうか」と、リンクが顔が安堵する。「…えと、おれが主でええかなっ……?」

「……。……うむ」

 ミーナが頷くと、リンクが笑顔になってミーナを抱きしめた。

「ありがとうっ……ありがとう、ミーナ。ごっつ大切にするからなっ」

「ふん……、特別だ」

 そう言って、ミーナが少し染まった顔をリンクの胸に埋めた。

 これにて今日の仕事は完了。
 リュウはキラの頭を撫でて言う。

「今日はおまえの手柄だな、キラ」

「もっと褒めてくれ、リュウ」

「ああ、良くやった」リュウはキラを抱きしめ、キラの耳に、額に、唇にキスしてやる。「……っと、この続きは帰ってからな。……おい、リンク」

「ん?」

 ミーナを抱きしめて幸せに浸っていたリンクは、リュウの顔を見上げた。
 リュウが手を出して言う。

「頼んだものは?」

「頼んだもの?」

「ゴム買って来いって言っただろ」

「……あ、忘れた」

「……」

 ゴスッ……!!

 リュウの強烈な拳骨を食らい、リンクは頭を抱えてうずくまる。

「役立たずが」

 キラを左腕に抱き、夕日を浴びながら不機嫌露わに帰っていくリュウ。
 その背を目を丸くして見送りながら、ミーナは言った。

「そ、そっくりだな、キラと」

「ああ…、そっくりやろ……」リンクは苦笑しながら言い、頭にできた大きなタンコブを擦りながら立ち上がった。「……さて、おれらも帰るか、ミーナ」

 リンクは地面にぺたんと座っているミーナを、子供を抱き上げるようにして立たせた。
 まだ子供のミーナは、小柄なキラよりもさらに小さかった。
 白猫の耳と尾に、ライトブラウンのおかっぱ頭。
 グリーンの愛らしい瞳が、リンクの顔を見上げている。

「帰る前に、買い物やな。何から買いに行こか」

「……首輪。桃色の」

 そう言って、ミーナが両腕をリンクの首に向かって伸ばす。

「よしっ」リンクはミーナを抱き上げた。「可愛いピンクの首輪買いに行こかっ!」

 リンクがはしゃいだ様子で歩き出す。
 リンクの幼さの残る笑顔を見ながら、ミーナは呟いた。

「悪くない……かな」

「え? 何やて?」

「ガキっぽいなって」

「あっ、こらっ、そういうこと言ったらあかんでーっ」

 リンクの頬が膨れた。
 が、それはほんの一瞬だけ。
 すぐに笑顔になった。

「……ま、ええかっ」

「認めるのか」

「認めたくあらへんけど、おれ今、ごっつご機嫌やからええねん。おれ今、ごっつ幸せやねん。ありがとうな、ミーナ」

「……」ミーナが、ぎゅっとリンクの首に抱きつく。「首輪買ったあとは、ビール買って。うまいものを食べて、ふかふかのベッドで眠りたい」

「おう、仰山ビール買いに行こな。キラも好きな高級レストランのフルコースをたらふく食べて、ふっかふかの羽毛布団を買って帰ろな」

 ミーナは頷いた。

(悪くない)

 リンクの頬にちゅっと音を立ててキスをする。

「おっ?」

 リンクがミーナの顔を見ると、ミーナが照れくさそうにリンクから顔を逸らした。

(か……、飼ってよかった)リンクのテンションは最高潮。(飼ってよかったあああああああああああああああ!!)

 嬉しさのあまり猛ダッシュでスキップするリンク。
 川の手前、つまずいてミーナもろとも川の中へダイビーング☆

「げほげほげほっ!」

「あわわわっ、ご、ごめん! だ、大丈夫かいなミーナっ……!」

「こっの……、バカ主ーーーーーーーーっっっ!!」

「――あっ、あんぎゃああああああああああああああああああああああ!!!」

 まるで断末魔のようなリンクの声が、夕暮れの葉月島に響き渡っていった。
 
 
 
 
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第3話 舞踏会 前編 1/2


 そろそろ春の花々が咲こうか冬の終わり。
 リュウ宅のリビングのソファーの上、部屋の主であるリュウは深く溜め息を吐いた。

「困ったな…」

「ああ、ごっつ困ったわ…」

 リュウの向かいのソファーに座っているリンクも、同意して溜め息を吐く。
 話は遡って3日前のこと。

 リュウの携帯電話に、ギルド長から仕事の連絡が入った。

「もしもし、リュウ。いつものように王から依頼が入ったのだが」

 仕事の内容は、葉月島ヒマワリ城で毎月始めに開催される、舞踏会全体の警護だった。
 信頼の厚いリュウとそのおまけのリンクは、毎月必ず王から依頼が申し込まれていた。
 ほとんどは何事もなく終わるその仕事は、暇といえば暇だが、楽といえば楽。
 リュウはいつものように引き受けた。
 そのあとにギルド長が言う。

「でもねぇ、次からはちょっと変わるんだよ」

「何がすか」

「舞踏会に、人間のようなモンスター…つまり、キラちゃんとかミーナちゃんとか、参加して良いことになってね」

 リュウは眉を寄せた。

「何で突然」

「いやー、うん…、怒らないでくれよ?」電話の向こうでギルド長が苦笑したのだ分かった。「キラちゃんの噂は、ヒマワリ城まで広がったみたいでね。王子がキラちゃんを一度見てみたいって、騒いでいるらしいんだよ。あと、ミーナちゃんも」

「は……?」

「ということで、キラちゃん同伴で舞踏会の警護を頼むよ。それじゃ、リンクとミーナちゃんにもよろしくっ」

 逃げるように、ギルド長は電話を切った。
 王からの依頼を断るわけにもいかず、リュウとリンクが困りまくって3日。
 現在に至る。

「何が困るって」リンクが苦笑しながら言った。「キラもミーナも、王子に気に入られないわけがあらへんってところやわ」

「ああ」リュウは同意して、また溜め息を吐いた。「子供のミーナはまだしも、あの女ったらしの王子がキラをほしがらないわけがねえ……」

「せやな。キラを飼いたいって、絶対に言い出すで。ミーナもくれ、なんて言われたらどうすればええんや……」

 そんな困りまくっている飼い主たちをよそに、キラとミーナはテレビゲームに夢中になっている。
 格闘ゲームで対戦をして、溜め息だらけだったリビングの中に、割れんばかりのミーナの泣き声が響き渡る。

「ふみゃあああああああああああああああああああん!」

 続いて、キラが誇らしげに仁王立ちして言う。

「この私に勝とうなどと、100万年早いのだ」

 どうやら格闘ゲームで、ミーナがキラにどうしても勝てないようだった。
 対戦結果を見てみると、98対0でキラの圧倒的勝利。
 やりすぎだ、と飼い主2人は心の中で突っ込んだあと、自分の愛猫を手招きした。

「来い、キラ」

「こっちおいでや、ミーナ」

 キラとミーナがテレビゲームを中断し、主の膝の上へと移動する。
 キラがリュウの頬や唇にキスして訊く。

「さっきから溜め息ばかりだな、リュウ。どうかしたのか」

「…なあ、キラ」リュウはキラの頭を撫でながら訊いた。「明後日に舞踏会があるんだが…、行きたいか?」

「舞踏会?」キラが鸚鵡返しに訊いた。「それって、あのでかい城で踊るやつか?」

「ああ。知ってるだろうが、葉月島ヒマワリ城の舞踏会は毎月始めに行われて、俺とリンクは毎回その警護に向かう。今回は、キラとミーナも呼ばれてんだよ」

「…みゃ?」リュウの言葉を聞いたミーナが、泣き止んで目をぱちくりとさせた。「ぶとうかいって、うまい?」

「まあ、うまいっちゃうまいな」リンクが言った。「ご馳走でるしな」

「おお、行くぞ、わたしも」

 と、今にも涎をたらしそうになりながら、ミーナが瞳を輝かせた。
 キラがリュウに訊く。

「仕事で行くのだろう? リュウや私たちは踊ったりはしないのだろう?」

「いや、俺たちは招待客のフリして紛れ込むからな」

「踊るのか」

「ああ、軽くな。俺とリンクはタキシード、おまえたちも行くならドレス」

「ドレス」キラが声を高くした。「それって、それって、あのキラキラでひらひらとした服のことかっ?」

「ああ」

「私も着たいぞ、リュウ」

 なんてキラに瞳を輝かせて言われては、リュウの迷いはどこへやら。
 即答する。

「分かった、ドレス買いに行くぞ」

 急遽そういうことになった。
 
 
 
 舞踏会の日。
 リュウ宅にて。
 ドレスとジュエリーを身に着け、プロにメイクアップしてもらった愛猫を目の前に、タキシードに身を包んだ飼い主2人が真っ先に襲われた感情は、後悔というものだった。

(や、やばい)リュウとリンクは、唾をごくりと飲む込んだ。(これじゃあ、王子にもらってくれと言ってるようなもの……)

 キラもミーナも、舞踏会に集まった人々の視線を釘付けにすること間違いなしだった。

「ああ、もう、どうしよ…。勘弁してや。かわええにも程があんで、ミーナ……」

 リンクが脱力してしゃがみ込む。

「よし、キラ」リュウがぽんとキラの肩に手を載せた。「ドレス着たし、もう満足だな。留守番よろしく。じゃ、行くぞリンク」

「へっ? ちょ、ちょ、ちょっと待って!」キラは慌てて、玄関へと向かっていくリュウにしがみ付いた。「何故私を置いていくのだ! 一緒に連れて行ってくれるって言ったではないか!」

「うるせー、連れて行けねーよ」

「何故だっ…」ドレスアップして、うきうきとしていたキラの顔が沈んだ。「私、似合っていないのか? この赤いドレス…、似合わないのかっ?」

「似合ってる。似合いまくってるし、おまえより綺麗な女は見たことねえ。だから嫌なんだよ」

「意味が分からん!」

「そうだ、意味が分からん!」ミーナがキラに続いた。「褒められているのに、褒められている気がしないぞ! 何なのだ、おまえらは! もっと素直に褒めてくれたって……!」

 ミーナの瞳が潤む。

「ごめん、ごめんな、ミーナ」リンクがミーナを抱きしめた。「おまえは舞踏会で1番かわええし、キラは舞踏会で1番綺麗やで。だから心配やねん、おれもリュウも」

「心配って、何のだ」

 キラがリュウの顔を見て訊いた。

「…ヤロウ共が、おまえたちを見る。王子が、おまえたちを欲しがる」

「王子?」

 キラとミーナが声を揃えた。
 リュウは頷いて続けた。

「今回の舞踏会から人間と近いモンスターの出入りに許可が下りたのって、王子がおまえたちを見たいって言い出したからなんだよ」

「そうか。だが、それがどうしたのだ」キラは言う。「私の主はリュウだし、ミーナの主はリンクだ。それは生涯変わらない。王子に求められたところで、私たちは受け入れたりしないぞ」

 うんうんと、ミーナが頷いて同意した。

「何、大丈夫だ」キラが笑って続けた。「ちゃんと王子に失礼のないようにする。リュウとリンクの名を汚すようなことはしないぞ」

「だが……」

 リュウはリンクと顔を見合わせた。
 躊躇しているリュウに、キラの口からトドメの一言。

「私だって、リュウの腕に抱かれて踊りたい」

 2人と2匹は、舞踏会へと向かった。
 
 
 

第3話 舞踏会 前編 2/2

 
 舞踏会の警護の仕事は普通の招待客のフリをするが故に、王や王子との接触は必要最低限以外はしないことになっている。
 リュウとリンクは、心の中で同じ言葉を繰り返す。

(見ないでくれ見ないでくれ見ないでくれ見ないでくれ)

 何をかって、愛猫を。
 愛猫たちに注がれる男たちの視線を、特に王子の視線を、リュウとリンクは必死に己の背で遮る。
 そんな飼い主たちをよそに、愛猫の方はのん気なもので。
 ミーナは料理を片っぱしから鱈腹堪能し、キラはリュウの腕に抱かれて踊りながらはしゃいでいる。

「楽しいな、リュウ」

「ああ」

 そう同意したリュウの顔は、とてもじゃないが楽しそうに見えなかった。
 周りの男たちを気にしてばかりで、キラの顔を見ていない。

「こら、リュウ」

 キラの不機嫌そうな声が聞こえて、リュウはキラに目を落とした。
 キラがむくれた顔をして言う。

「私を見て踊らぬか。私は今日、リュウのために綺麗にしてもらったのだぞ」

「……そう、だな」リュウの強張っていた顔が緩んだ。「おまえに酔いしれるか」

 愛しいキラの笑顔を見ながら、一体何曲踊ったのか。
 本当に酔わされてしまって、よく分からない。

(キラを舞踏会に連れてきて良かった)

 まるで夢の中で踊っている気分のリュウ。
 それはキラも同じだった。
 それを打ち破ったのは、聞き慣れた地方訛りの声。

「2人の世界作ってるとこ悪いんやけど」

 リュウが顔を傾けると、そこにはリンクの顔。

「…リンク、おまえ、つくづくぶっ飛ばしたくなるな」

「なっ、なんでやねんっ」リンクはぎょっとしたあと、王子のいる方に一瞬目を向けた。「それより、来たで…、お呼びが」

「……」

 やっぱり来たかと、リュウは恐る恐るといったように王子に顔を向けた。
 ブロンドのウェーブがかった長い髪に、ブルーの瞳。
 甘いマスクをにっこりと微笑ませて、思いっきり手招きしている。

「おお」リンクの傍らで骨付き肉をほお張っていたミーナが、王子を見て声を高くした。「まるで絵本に出てきそうな王子だな。良いな、リンクより」

「あっ、あかん、あかんでミーナ! あかんあかんあかんあかん!」

 小声になって狼狽しているリンクの傍ら、リュウは覚悟を決めた。
 超一流ハンターとしての名が汚れても良い、超一流ハンターから降格しても良い。
 王子がキラを欲したら、何が何でも断ってやる。
 絶対に、絶対にキラだけは渡さない。

「お呼びですか、王子」

「舞踏会を楽しんでいるところを悪いな、リュウ」

「いえ」

 王子がキラに目を向けた。

「これはこれは美しい…、噂通りのブラックキャットだ。そなた、名を何と言う」

 王子に訊かれ、キラが口を開いた。

「キラ…と申します」

「キラか。そなたにぴったりの、美しい名だ」座っていた王子が立ち上がり、キラに歩み寄った。キラの手を取り、微笑んで言う。「キラよ、私と一曲踊ってくれぬか?」

「踊る踊るっ」と、はしゃいで言ったのは、リュウとキラに続いてやってきたミーナだ。「王子様っ、わたし、ミーナ! わたしと踊ってくださらぬかっ」

「こっ、こらこらこらこら!」ミーナを追ってきたリンクは、慌ててミーナの口を塞いだ。「なっ、何言い出すねん、おまえはっ! だっ、大体、口の利き方ってもんが…! あああああ、申し訳ございません、申し訳ございません王子!」

 おろおろとし、ぺこぺこと頭を下げるリンク。
 王子がおかしそうに笑った。

「良い、リンク。気にするでない」そう言ってリンクに頭を上げさせ、王子はミーナに優しい笑顔を向ける。「ミーナよ。私で良いのならば、後ほど相手を頼もうかな」

「はいっ、待ってまーすっ!」ミーナが頬を染めて、元気良く手を上げた。「ていうわけで、キラ。早く踊ってきてくれ?っ」

 ミーナに急かされ、キラは仕方ないと小さく溜め息を吐いてから、王子に言った。

「私で宜しければ……」

「おい、キラ――」

 リュウの口を、リンクが背後から塞いだ。
 小声でリュウを宥める。

「落ち着け、落ち着くんや、リュウ。一曲踊るだけやから」

「……」

 そうだ、一曲踊るだけだ。キラは王子と一曲踊るだけだ。
 そんなに慌てることはない。
 リュウは何とか気を落ち着かせ、るんるんとした王子に連れて行かれるキラの小さな背を見守った。
 一曲終わったらすぐに取り返しに行って、何かしようものならば容赦なく割り込んでやる。
 黒く鋭い瞳をギラギラとさせ、キラと王子の様子を見ているリュウに、背後に立っているリンクが言う。

「なあ、リュウ」

「話しかけんな、今忙しい」

「それは分かるんやけど」

「じゃあ黙ってろ」

「いや、でも……」

「何だよ」

「めっさお呼びが掛かってんで?」

「あ……?」

 苛々としながら振り返ったリュウ。
 そこには、今日のために精一杯着飾った婦人たちが列を成していた。

「リュウ様、あたくしと踊ってくださいな!」

「いいえ、私と踊ってくださいな!」

「いいえ、わたくしですわ!」

「私よ!」

「あたくしって言ってるでしょ!」

「引っ込んでなさいよ、あんた!」

「あんたこそ自分の旦那の相手してなさいよ!」

 舞踏会恒例、ご婦人たちの間で起きる、リュウのダンスパートナー争奪戦が始まった。
 キラのことで頭が一杯で、リュウはすっかり忘れていた。
 毎回、警護という仕事では暇で楽でも、ご婦人たちの相手は暇も楽もあったもんじゃない。
 争いを放っておけば舞踏会を荒らすことに成りかねないが故に、リュウはご婦人たち1人1人と一曲ずつ踊って争いを鎮めないといけないのだ。
 モテモテのリュウが羨ましいリンクも、ここまで行くと哀れに思えて苦笑してしまう。

「がんばってや、リュウ……」

「……。おう……」

 リュウは溜め息が出そうになりながら、列の先頭に立っていた婦人と踊り始めた。

(まったく、キラと王子を見張ってなきゃなんねーってときに…。…ん? いや、待てよ。これはキラと王子に近寄るチャンス……!!)

 リュウに腰を引き寄せられ、婦人の頬が染まる。

「あぁん…リュウ様、そんな……! あぁぁぁぁれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーっっっ」

 突然、ゆったりとした曲に合わない超高速回転をし始めたリュウに、シャンパンを飲んでいたリンクは思わず噴出した。

「ぶっ…! なっ、何してんねん、リュウの奴……」 「すごいな。回りまくってるぞ」ミーナが目を丸くして言う。「しかも回りながら移動してるな」

 そのリュウが向かっている先は、あからさまにキラと王子のところ。
 ぶつかるんじゃなかろうかと思うくらい王子の背に近寄って、ようやくリュウの超高速回転は止まった。

「……。最近ときどき、リュウがめっさアホに見えるのは気のせいやろか」

「安心しろ。黙っていたが、わたしもだ」

 そんな会話がリンクとミーナの間でされていることなど、当の本人であるリュウは察する余裕あらず。
 常に王子の背に来るように踊りながら、リュウは必死に王子とキラの会話に耳を傾ける。

「ああ、キラ…、そなたは本当に美しいな。どんなに気高く可憐な花も、どんなに輝かしい宝石も、そなたと並んでは陰りとなってしまう」

 と、王子が感嘆の溜め息を吐いた。
 リュウは心の中で突っ込む。

(さらっとクセー台詞吐いてんじゃねーよ、この女ったらしがっ)

 王子が続ける。

「私は先日、そなたを傍に置くためにハンターの資格を取ってきた」

(絶対顔パスだろ、それ)

「ブラックキャットについて、全島から情報を集めて学んだ」

(だから何だよ、え!?)

「そなたが望むものは、何だって授けよう。そなたが望むのなら、私はそなただけのものになろう」

(それは俺1人で充分だ!)

「絶世の美女…キラよ。私を主に選んではくれぬか? そうだな…、一週間、いや、3日で良い。3日間この城で過ごし、それで私が気に入らなければ断ってくれて構わない。どうだ、キラ?」

(ちょっ…、調子こいてんじゃねえええええええええ!!)

 曲が鳴り止んだ。

「王子!」

 思わず大声で呼んだリュウに、王子が余裕の笑みで振り返った。

「何だ、リュウ。さっきから無粋だぞ」

「う…」気付かれないように自然に近づいてきたつもりのリュウだったが、すっかり王子に気付かれていたようだった。「い…一曲終わりましたよ……!?」

 リュウの声が聞こえたキラは、王子の腕の中から顔を覗かせた。

「リュウっ…」リュウの顔を見て笑顔になったキラだったが、リュウの腕の中に婦人がいることに気付いて、すぐにそれは消え失せた。「……何をしている」

「な、何って、べ、別に盗み聞きしてたわけじゃ――」

「まったくリュウは、相変わらず罪作りだな」王子がリュウの言葉を遮った。「レディをそんなにしてしまうとは……」

「は……?」

 自分の腕の中に目を落としたリュウ。
 リュウに抱き寄せられ、身体と身体が密着して頬を染めている上に、さっきの超高速回転で目を回してしまってリュウの腕に身を預けるように凭れかかっている婦人がいた。
 王子が続ける。

「今夜は、そのご婦人を愛するのか」

「!? ちっ、ちが――」リュウの言葉を、キラの平手が遮った。「キ…、キラっ……?」

 キラが王子のに笑顔を向けて言う。

「分かりました。今夜から3日間、お世話になります」

「なっ…! おい、キラ――」

「大嫌い」

「――!?」

 さも不機嫌そうにどかどかと足音を立てながら、去っていってしまうキラ。
 大嫌いと言われたリュウは、ショックでしばらく声が出ず。
 次の曲が流れ始め、きゃっきゃと駆け寄ってきたミーナと踊りながら、王子が短く笑って言う。

「無粋にも盗み聞きしようとするからそういうことになるのだ、リュウ。自業自得だな」

(この、クソ王子が)

 リュウは心の中で殺意たっぷりに言ったあと、慌ててキラを追いかけた。



 婦人たちに何度も引き止められながら、リュウはやっとキラの背に追いついた。
 舞踏会が行われている2階から1階へと繋ぐ、外に作られた階段のちょうど中間あたり。

「待てっ、キラ…!」リュウはキラの腕を掴んだ。「何おまえ、俺の許可なしに王子の頼み受け入れてんだよ!?」

「リュウこそ、私以外の女と踊るとはどういうことだ!」

 キラが牙を剥いて振り返った。

「何だよ、踊るくらい! 大体、そういうおまえだって王子と踊っただろうが!」

「それはリュウの名を汚さないためだ! 仕方なくだ!」

「俺だって、仕方なくおまえ以外の女と踊ってんだ!」

「どうだか」キラがリュウから顔を逸らした。「王子の口ぶりだと、リュウは舞踏会に招かれるたびに女を抱いているように感じた」

「舞踏会を穏便に終えるためだ、仕方ねーだろ!」

「み、認めるのか!?」キラの顔が驚愕した。「リュウ、おまえは私以外の女を抱いていると、認めるのだな!?」

「現在進行形で言うな! それは過去の話で、俺はおまえを飼ってからは――」

「黙れ!」キラが叫んだ。「黙れ…黙れ黙れ黙れ! 昔の話だろうと、おまえは私以外の女を抱いた!」

「だから何だよ! 男は好きな女じゃなくてもやりたきゃやれるんだよ! 昔の話でごちゃごちゃ言ってんじゃ――」

 リュウは、はっとして言葉を切った。

「…っ……!」

 キラの大きな黄金の瞳から零れた、大粒の涙。
 突如襲われた胸の痛みに、リュウの声が続かなかった。
 一瞬息が止まった。
 身体が硬直した。
 走り去っていくキラを、捕まえることができなかった。

 キラの小さな背が、城の中へと消えていった――。
 
 
 
 
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第4話 舞踏会 後編 1/2



 昨日の舞踏会のあと、リュウは家へと帰ったが、キラは王子に頼まれた通り3日間ヒマワリ城に泊まることになった。
 3日後の夜にキラを迎えに来るようにと、リュウはリンクを通じて王子から伝言を承った。
 久しぶりにベッドを独占して眠ろうとしたリュウだったが、まるで眠れなかった。
 眠ろうとして目を閉じると、キラの泣き顔が浮かんですぐに瞼を開けてしまう。
 そのまま、朝が来た。
 キラお気に入りのネズミ型目覚まし時計が、チューチュー鳴きながらその場で回りだす。
 ネズミの鼻の部分を指で押して静め、リュウは身体を起こした。

「…仕事、行かねーと……」

 ベッドから出て、洗面所で顔を洗って歯を磨き、リビングへカーテンを開けに向かう。
 カーテンを開けると、リュウの心の中とは違って快晴の空が広がっていた。
 ソファーの上に置かれているクッションがふと目に入って、それを手に取る。
 キラお気に入りの、ネズミ型クッション。
 キラは留守番をしているとき、眠くなったら必ずこれを抱いて眠っていた。

(キラ、おまえは眠れたか……?)
 
 
 
 ヒマワリ城の料理は美味だし、城の中は駆け回って遊べる広さ。
 ビールが好きだと言えば飲みきれないくらい用意してくれるし、煌びやかなドレスや宝石だって沢山。
 泳げるほど広いバスタブに浮かべられた薔薇の花は食べてもおいしかったし、大きなベッドはふかふかのもふもふで、想像の中の雲のような寝心地だ。
 でも、

(昨夜は眠れなかった)

 城の中は、まるで楽園のようだ。
 でも、キラにとって何かが足りなかった。
 何かが無かった。

(きっと今夜も眠れない)

 見渡すほど広い庭に用意されたテーブルで、王子と2人でティータイム。
 常に優しい笑顔を向けてくれる王子に、キラは笑顔を返す。
 必死に笑顔を作る。
 ここで今の感情を露わにした態度を取っては王子に失礼にあたり、そしてそれはリュウの名を汚してしまうことになってしまうから。

「ムニエルはどうだ、キラ」

 香りの良い紅茶を一口飲んで、王子が訊いた。
 ティータイムだというのに、キラの前にはビールと魚のムニエル。
 しかもビールは大ジョッキ。
 一体どこがティータイムなのかと、注文したキラ自身も突っ込みたくなる。

「この城の料理は、みんなおいしいです」

「そうか。それならば良かった」そう言って、王子は本当に嬉しそうに笑う。手をぱんぱんと叩いて少し離れたところにいたメイドを呼び、王子が言う。「私にもビールとムニエルをくれ。グラスもキラと同じもので」

「へっ?」キラは思わず声が裏返った。「い、いや、あのっ、私に合わせなくて結構ですからっ…。無理なさらないでくださいっ…。それではオッサンになってしま……あっ、いえっ、その……」

「オッサン? そうか、私はオッサンか」王子がおかしそうに笑った。「良いのだ。私がそうしたいのだ」

 そう言って王子は、大ジョッキで用意されたビールを一口飲み、ムニエルをフォークとナイフで上品に口にする。

(さ…、最高に似合わなすぎるっ……)

 キラ、思わず絶句。
 快晴の空の下、花々の香りがする庭での昼下がり、乙女が頭に描きそうな王子とあろうものに、なんてことをさせてしまったのか。
 焼き魚ではなくムニエルというところが、不幸中の幸いだろうか。

「うむ。旨いな、キラ!」

 王子の笑顔が咲き乱れる。
 女ったらしだという噂も耳にしたが、その笑顔は純粋なものだった。
 ブルーの瞳だって、穢れが見つからなかった。
 衝撃的な光景にまだ呆然としているキラに、王子が言う。

「どうした、キラ? どっちが飲めるか、勝負でもするか?」

「え?」

「私はこう見えて結構、酒には強いのだぞ」

 勝負。
 その言葉を聞いて、キラの瞳が光る。

「王子が相手とはいえ、負けませんよ?」

「ふふ、望むところだ、キラよ。いざ…!」

「勝負っ!」

 キラのジョッキと王子のジョッキが、快晴の空の下でかちんと音を響かせた。
 
 
 
 午後3時頃からキラに会いにヒマワリ城へと遊びに行っていたミーナは、夜になってから戻ってきた。
 主がいる、リュウ宅のリビングへ。

「ただいまぁ」

「こら、おっそいで、ミーナ」ミーナの主であるリンクは、眉を吊り上げて言った。「心配するやないかい。……で、どうやった」

 リンクは訊いた。
 キラの様子は、どうだったかと。
 ミーナをヒマワリ城へと遊びに行かせたのは、他の誰でもないリンクだった。
 見るからに元気のないリュウのために。

「うん、楽しかった!」

 と、ミーナ。
 それってキラの様子ではなく、ミーナが城で遊んできた感想じゃなかろうか。
 そうじゃなくて、とリンクが続けようとしたとき、ミーナが言った。

「えらく面白いものが見れた」

「面白いもの?」

「うん。最初見たときは、思わず呆然としてしまったぞ」ミーナがリンクの傍らに座って続ける。「わたしが城へ行くと、キラと王子は庭でティータイム中だと言われた。それで庭へと案内されて見ると、何してたと思う」

「何って、ティータイムちゃうん」

「聞いて驚くな」

 と、ミーナが言い、リンクはぎくりとした。
 キラと王子が、リュウの傷つくようなことをしていたらどうしようと。

「でかいジョッキに入ったビール片手に、どっちが飲めるか勝負していたのだ!」

「は?」

「つまみはムニエルとか、軟骨のから揚げとか、タコわさびとか、仕舞いにはスルメを用意させていたな」

「え、えぇ……?」

 あの王子がビールのジョッキ片手に居酒屋メニューを食べている姿が想像できなくて、リンクの頭の中が困惑する。
 向かいのソファーにいるリュウを見ると、リンク同様想像がつかないのか眉を寄せている。
 ミーナが続ける。

「わたしはまったり飲んでいたのだが、キラと王子は会話を交わしつつも本気で勝負していたな。なんというか、ムードというものがまるでなかった」

(そりゃ良かった…)

 リンクは心の中で安堵した。
 ムードたっぷりだったなんて言われたら、リュウはきっと眠れないどころか食事すらできなくなってしまう。
 今日の朝も昼も夜も、食事を飲み物で無理矢理流し込んでいる状態なのだから。
 いつもリンクの目に大きく映るリュウの背が、とても小さく見えた。
 リュウが口を開く。

「…で、王子は何時ごろ潰れた」

 勝敗を分かっていたリュウに、ミーナが言う。

「結構強いぞ、あの王子。夕日が沈んだころに、ようやっとキラの勝ち誇った笑いが響いたぞ」

「…そうか」

 そう一言返して、リュウは口を閉ざした。

(楽しくやってるのか)

 リュウの心境を察して、リンクは慌ててフォローを入れる。

「あれやろなっ。キラは自分より酒弱い男になんて、振り向かないやろなっ」

「……」

 この日、リュウはもう口を開かなかった。
 
 
 
 城に泊まって2日目。
 昼食後、キラは庭へと歩いていった。
 桃色の蕾をたくさん付けている木の枝にぴょんと登って、そこに腰掛ける。
 今日の天気も快晴。
 心地よい春の風が、キラのガラスのような髪の毛をなびかせる。

(昨夜も眠れなかった。そして今夜も眠れない)

 昨日は王子が酔いつぶれたあとも、キラは飲み続けた。
 午後9時ごろになってミーナが帰っていったあとも、飲み続けた。
 でも、酔えなかった。
 城の外で0時を知らせる金が響いて、ふかふかでもふもふのお姫様ベッドに寝転がって、目を閉じても眠れない。
 何かがなくて眠れない。
 そのまま朝日を迎えた。
「そなたは、本当に美しいな」少し前から庭へ来て、少し離れたところからキラを見つめていた王子は言った。「…お転婆娘だが」

 そう付け足して、王子はドレス姿で木に登っているキラをおかしそうに笑う。

「あれ、王子……」いつからそこにいたのだろうと、キラは瞬きをした。「二日酔いはもう良いのですか」

 今朝になって目を覚ました王子は二日酔いで起き上がれず、昼食のときにも姿を見せなかった。

 王子が笑顔で言う。 「ああ。もうすっかり治った。キラには負けた。昨日は私の完敗だ」王子が、枝の上にいるキラに向かって両手を伸ばした。「おいで、キラ」

「……」

 キラは王子を見下ろした。
 両手を伸ばしたまま、微笑んで待っている。
 キラは枝の上から飛び降りた。
 王子がキラの身体を両腕で受け止める。
 やっぱり王子も男。
 キラの身体を軽々と腕に抱いた。

「さぁて、今日は何をして遊ぼうか、キラ。何でも良いぞ」

 この王子は、言葉通りきっとどんな遊びにも付き合ってくれるだろう。
 というわけで、キラはいつもリュウが付き合ってくれない遊びを口にしてみた。

「…ネズミ捕り」

 王子が張り切って、袖をまくった。
 
 
 

第4話 舞踏会 後編 2/2

 
「ぶほっ! げほげほっ……ごほっ!」

 リュウ宅のリビングにて、本日のキラの様子をミーナから聞いたリンクは、缶チューハイを飲んで思わずむせ込んだ。

「というわけで」ミーナが言う。「今日も面白いものを見たぞ」

「なっ、なんってことを王子にさせてんねん、キラ…!」

 リンクは驚愕してしまう。王子がキラと一緒にネズミ捕りをしていたと言うのだ。
 ミーナが続ける。

「でも王子、ものすごく楽しそうだったぞ。しかも上手いし、キラもわたしも負けじと夢中になってしまった」

「あ…あかん。キラと一緒にいたら、王子が王子じゃなくなってしまうでっ」

「…そうだな」リュウがリンクに同意した。「…本当、王子はキラのためなら何だってしてやるんだな。…こうなったら、俺も一緒にネズミ捕り――」

「いや、せんでええから」

 リンクは突っ込んだ。
 リュウがネズミ捕りをする姿など、間違っても見たくない。
 口を閉ざしたリュウに、リンクは明るい声で言った。

「明日やなっ、リュウ! キラ迎えに行くの」

「……」

 この日、リュウはもう口を開かなかった。
 
 
 
 今日、リュウはヒマワリ城へとキラを迎えに行く。
 仕事帰り、よく寄るバーでリンクとミーナと一緒に晩ご飯を食べながら、リュウはこの日初めて口を開いた。

「…王子、何時にキラを向かえに来いって言ってた」

「えと、たしか0時ちょっと前」リンクは答えて、店の中の時計に目をやった。「今8時半やから、3時間後に向かえに行けばちょうどええやろ」

 リュウが時計を見て時刻を確認したあと口を閉ざした。

「あ…、リュウは酒飲んでええで」リンクは笑って言った。「おれが車運転するから」

 リュウは頷き、ウィスキーのロックを注文した。
 ミーナもビールを注文した。
 飲み始めて2時間後、ミーナがリンクの膝枕で眠りだす。
 リンクがミーナの頭を撫でていると、リュウが再び口を開いた。

「……リンク」

「ん」リンクは顔を上げて、リュウの顔を見た。「なんや、リュウ」

 リュウは窓の外を見ていた。
 リンクもそちらに顔を傾けると、さっきまで星を輝かせていた空が、いつの間にか雨を降らせていた。

「キラは、俺を待ってると思うか」

 そんなリュウの台詞が聞こえて、リンクは再びリュウの顔を見た。
 リュウと付き合いが長いリンクは見逃さない。
 感情を表に出さないようにしているリュウだが、その黒々とした瞳の奥が不安に揺らいでいるのを。
「あっ…、当たり前やんかっ。何言ってんねんっ」

「……舞踏会の日」リュウが外を見たまま続ける。「キラと初めて喧嘩した」

「…うん」

 リンクは頷いた。
 それはリュウの様子を見ればすぐに分かったことだった。

「俺、キラを泣かせたんだ」ウィスキーのグラスを握るリュウの手に、少し力が入った。「何も……、言えなかった」

「そか…。おまえは言葉が不器用やからな」

「うるせーよ」そうリュウは憎まれ口を叩いたが、否定はできなかった。「…比べて王子は、キラを泣かせねーよな。万が一泣かせたとしても、すぐに言葉を見つけられる。見つかった言葉を、簡単に口にすることができる」

「王子はさらっとクサイ台詞吐くもんなぁ。あれはおれでも無理やっちゅーねん」

 リンクは苦笑した。
 リュウが続ける。

「王子は、俺が言えないことをキラに言ってやれる。王子は、俺がキラと一緒にしてやらなかったことをしてやった」リュウが声を詰まらせ、もう一度リンクに訊く。「なあ、リンク。キラは、俺を待ってくれてると思うか」

 リンクは微笑んで言った。

「キラの主はおまえだけやで、リュウ」



 城で最後の晩ご飯を食べ、キラは3日間過ごした自分の部屋へと向かった。
 舞踏会の日に着ていた赤いドレスに着替えたキラを見て、王子の瞳が動揺した。

「帰るのか、キラ……?」

「もうすぐリュウが、迎えに来る」

「…っ……!」王子がキラを抱きしめた。「行かないでくれ、キラ…! この3日間、私はこれまでに感じたことのないくらい楽しかった。そなたといると心が弾んだ。お願いだ…、お願いだ、キラ。行かないでくれ…! 私は、そなたを愛している……!」

「…愛してる」キラは呟いた。「一度で良いから、リュウの口から聞いてみたい台詞だ」

「私ならば、毎日だって言ってやる! 聞き飽きるほど、言ってやる!」

「…ありがとう。でも、ごめんなさい」

「何故だ…!? 城での生活は、気に入らなかったか……!?」

 キラは首を横に振った。

「料理はおいしいし、城の中は駆け回って遊べた。ビールをたくさん飲めたし、綺麗なドレスや宝石も身につけられた。バスタブに浮かべられた薔薇の花の味も気に入ったし、ベッドはふかふかのもふもふで嬉しかった。3日間、あなたは私とたくさん遊んでくれた。とても嬉しかったし、楽しかった」

「じゃあ、じゃあ、何故行ってしまうのだ……!」

「ここには…、ここには」キラの瞳から、涙が零れた。「リュウがいない。ネズミの抱き枕もないし、リュウもいない。眠ることができない……! リュウの腕に抱かれて夢を見る幸せは、何にも変えられない……!」

 そう言って、キラが泣きじゃくる。

「――…そうか、そうか、キラ。分かった」王子が、キラの涙を指で拭った。「私は、そなたが毎晩泣いているのを知っていた。リュウの名を呼んで泣いているのを知っていた。それなのに私の欲で閉じ込める形になってしまって、悪かった。辛かっただろう。私の相手をしてくれて、ありがとう、キラ」

 キラは必死に首を横に振った。

「私こそ、本当にありがとう…、ありがとう王子様」

 王子は微笑んでキラの手を引いた。

「さぁ、もうすぐ9時だ。リュウが迎えにくるから行こう、キラ」

 キラは笑顔で頷いた。
 
 
 
 王子が舞踏会の夜にリンクを通じてリュウに伝えた伝言は、「念のためにキラを迎えに来ることになったら、3日後の夜9時に城の城門の前まで来るように」。
 それなのに、9時を30分過ぎてもリュウの姿は現れなかった。

「何をしているんだ、リュウは……」

 苛立った様子の王子に、キラは笑顔を向けて言った。

「リュウは忙しいから、仕事がまだ終わらないのかも。王子、もう結構ですからお城の中へ」

「駄目だ、そなたをこんなところに1人にしてはおけない」

「ありがとう」

 城門の下、キラは夜空を見上げた。
 だんだんと雨雲が立ち込めてきて、30分後には雨が降り出した。

「ええい、リュウはまだか……!」

「緊急の仕事かも…、きっと」

 雨が強くなり、さらに1時間後。
 時刻は午後11時を回った。
 まだリュウの姿は見えない。
 王子が言う。

「もう駄目だ、待っておれぬ。キラをこんなにも待たせるとは、どういうことだ。キラ、待っておれ。私が今、馬車で家まで送ろうぞ」

 キラは首を横に振った。

「リュウを、待っていたいから」

「しかしっ……」王子は戸惑ったあと、言い直した。「…分かった。リュウが来るまで、一緒に待とうぞ」

「ありがとう」

 キラは王子に笑顔を向けたあと、再び空を仰いだ。
 雨はさらに強さを増していく。

(リュウ、まだ…? 今、どこ……?)キラの胸が不安に駆られる。(リュウ、まだ怒ってるの? 私のこと、もういらないの? 捨てたの? ねぇ、リュウ…、今どこにいるの……?)

 辺りに0時を知らせる鐘が鳴り響き、キラの瞳から堪えていた涙が零れ落ちた。

「――…リュウっ…! どうして来ないのっ……!?」

「おのれっ、おのれ…、リュウ! 何をしておるのだ!」王子は泣き出したキラを抱きしめた。「もう見てられん、奴は駄目だ! キラ、やはり私を選べ!」

 王子の腕の中、キラは必死に首を横に振る。

(もう、文句なんか言わない。過去のことなんかどうだって良い。だからお願い、リュウ…! 私を迎えにきて……!)

 キラがそう願ったとき、暗闇の中に車のライトが見えた。

「リュウっ…!?」眩しい光に目を細め、キラはその車がリュウのものであることを確認した。「リュウっ……!」

 車が城門の前で止まり、リュウが後部座席から降りて、雨の中をこちらへと向かって歩いてくる。

「リュウっ!!」キラが王子の腕の中から飛び出し、リュウの胸に飛び込んだ。「リュウっ…リュウっ……!」

「な…に、泣いてんだよ?」

 リュウは動揺しながら、着ていたジャケットをキラに被せた。
 必死に胸にしがみ付いてくるキラを見て、やっとリュウの心の中の不安が取り除かれる。

(キラは、俺を待っていてくれた)

 キラを抱きしめたかったリュウだったが、城門の下に王子がいることに気付いてやめた。

「…キラ、車の中に入ってろ。リンクとミーナもいるから」

 ミーナと聞いて、キラは涙を拭った。
 王子に一礼して、車の後部座席へと駆け込む。
 キラが車へ入ったあと、リュウは城門の下にいる王子のところへと歩いていった。

「王子――」

「リュウ!!」

「――!?」王子がほぼ飾りにしている腰の剣をリュウに向かって振り下ろし、リュウは瞬時に真剣白刃取りで受け止めた。「あっ、危ねえっ……!!」

「うるさい! 来るのが遅いのだ!!」

「遅いって、1分しか遅刻してないはずですが」

「何を言っておる! 9時に向かえに来いと言ったはずだ!」

「は?」リュウは眉を寄せた。「0時ちょっと前って聞きましたけど」

「何……?」

 王子の眉も寄る。
 2人の目線は、車の中のリンクへ。

「……。リュウ、あのバカに制裁を加えておけ」

「御意」

 2人はリンクに呆れたあと、再び顔を合わせた。
 王子が口を開こうとしたとき、リュウが頭を下げた。

「申し訳…ございません、王子」

「…キラのことか」

「……はい」

「…頭を上げよ」

 王子に言われ、リュウは頭を上げて続けた。

「キラは…、キラだけは、お譲りすることができません。王子だろうと、王だろうと、キラだけは譲ることはできません。キラがあなたを選ぼうと、俺はキラを強引にでも傍に置く」

「……」

「俺が…俺が、キラがいないと駄目なんです。キラがいないと、眠ることすらできない。俺はキラがいないと、駄目なんです」

 王子は驚かずにはいられなかった。
 王子はリュウがどんな男かよく知っている。
 とても誇り高く、王子の知っている中では一番強い男だ。
 そんな男の口から、まさかそんな台詞が出るとは思いもしなかった。
 そんな、弱い者を思わせる台詞が出るなんて。

「…キラも、同じことを言っていた。おまえがいないと、眠れないと。おまえの腕の中で夢を見る幸せは、何にも変えられないと言われた」

「……」

「おまえは私がほしくて仕方がないキラに、それほど想われているのだ。泣かせるでない」

「…はい」

「よし…、行け」王子がリュウに背を向けた。「キラが待っている。早く行って抱きしめてやれ」

「はい」

 リュウが王子に礼をして城門から駆け出そうとしたとき、王子が言った。

「それから」

「?」

「たまにはキラに、『愛している』と言ってやれ」

「……まじで?」

「まじだ」王子が振り返って、威厳たっぷりに言う。「私の命令だ、リュウ」

「……。御意」

 リュウはもう一度王子に礼をしたあと、車の後部座席に乗り込んだ。

「よっしゃ、帰るで?っ♪」と、車を発進させるリンクの頭に、リュウの拳が飛ぶ。「…って、なにすんねんっ、リュウ! 痛いやないかい!」

「うるせー、バカが。何が0時ちょっと前に迎えに行く、だ。9時じゃねーか、9時!」

「えぇっ? ほんま?っ!? ご、ごめん、ごめんなっ、キラ――」

 バックミラーで後部座席を見たリンクは、言葉を切って微笑んだ。
 必死にキラを抱きしめているリュウと、必死にリュウにしがみ付いているキラ。
 リンクは笑いながら言った。

「ここで始めるんやないで?、ミーナおんねんから?」

「始めるって、何をだ?」

 助手席のミーナが、訊きながら後部座席に振り返る。

「はいはい、子供は前見て」

 リンクは片手でくるりと、ミーナの頭の方向を変えた。
 リュウの唇がキラの唇に重なる。
 数分の間、唇を奪い合う。
 そのあと、リュウがリンクやミーナに聞こえないようにキラの耳元で囁いた。

「……愛してる」

「――」

「愛してる、キラ」

 リュウが、キラを押し倒した。

「!? だっ、だから始めるなって――」

 顔を真っ赤にして振り返ったリンクは、ぱちぱちと瞬きをして言葉を切った。
 ミーナも振り返って言う。

「死んでるぞ」

「殺すな」

 リンクはミーナに突っ込んで、再び前を見て運転し始めた。
 なるべく、静かに。
 極力、安全運転で。
 幸せそうに眠るリュウとキラを、夢の中から引き戻してしまわないように。
 
 
 
 
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本館『NYAN☆PUNCH!』

第5話 メイドと執事のタコ焼き売り 1/2



 季節は春満開。
 桜満開。
 本日正午前にキラと共に仕事を終わらせ、帰路へと着くリュウの目に桜の花が飛び込んできた。

「ああ…、そういやこの辺は葉月公園の近くだったか」

 葉月公園は葉月島葉月町の一番大きな公園で、一番の花見スポットだった。
 人々がぞろぞろとそちらへと向かって歩いていく。
 人ゴミが嫌いなリュウだが、きらきらと瞳を輝かせて葉月公園の方を見ているキラに気付いて言った。

「昼飯、そこの公園で食ってくか」

「おぉっ」キラが声を高くした。「あの美味そうな花、食って良いのか!」

「食うな。それから木にも登るな。花見なんだから」

「そうか、花見か。では何を食うのだ?」

「出店がいっぱい出てるだろ。ビールだってあるし」

「よし、行きたいぞ!」キラがリュウの腕を取り、進行方向を葉月公園にして歩き出した。「ねぇ、リュウ、リュウ」

「ん」

「久しぶりに、デートみたいだな」

「そう…だな」

 最近は仕事も、外へ遊びに行くときも、リンクとミーナが一緒にいた。
 2人きりのデートというデートは、久しぶりのことだった。

(今日はもう仕事が終わったし、キラとゆっくりデートでもするか)

 そうリュウが張り切ったときのこと。
 リュウの携帯電話が鳴った。

「仕事か? 緊急の…」

 キラの顔が元気をなくす。

「…いや」リュウは携帯の画面に出ている名前を見て言った。「リンク」

 リュウは嫌な予感がしながら、電話に出た。

「へるぷみーーーーーーーーーっ!!」リュウが声を発するよりも先に、リンクが電話の向こうで叫んだ。「助けてっ…、助けてやリュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

「なんだよ、うるせーな」リュウは溜め息を吐いた。葉月公園へと足を進めながら言う。「俺は今、忙しいんだ」

「えぇっ?」リンクの声が困惑した。「何してるんっ? ごっつ忙しいんっ? どえらい仕事かっ?」

「キラと花見デート」

「……。どこで?」

「葉月公園」

「さっ…、さっすがリュウや…! やっぱ困ったときはおまえや……!」

「はぁ…?」

 何を言ってるのかと、リュウは眉を寄せた。
 リンクが続ける。

「おれ実は、金が底を尽きそうなんやけど」

「貸してやろうか、十日で一割の利子で」

「トイチかいな! この鬼っ!」

「嫌なら貸さねー。で、何で金欠」

「何でって…! おまえがキラに何でもかんでも買ったるから、うちのミーナもキラと同じものほしがって買ったるハメになってるんやないかい! おれやて一般人から見れば金持ちの一流ハンターやけど、報酬は超一流ハンターのおまえの半分なんやからなーーーっ!!」

「うるせーって、声」

 リュウの足が葉月公園に入る。
 リンクは続ける。

「とゆーわけで、追い詰められたおれがおる」

「そーか。じゃ、葉月公園に着いたから切る」

「待て待て待て待て!」

「何だよ、キラが腹減らしてんだよ」

「うっ…、うちのタコ焼きはいかが?っ?」

「は?」

 リュウの足が止まる。
 黒い猫耳を傾けてリンクの声を聞き取っていたキラの足も、思わず同時に止まる。
 そして見つける。

「……何で」

 何でいるのか。
 一番左端の『たこ焼き』と書かれた出店の中に、ひらひらと手を振っているリンクが。
 その足元にいたらしいミーナが、ひょっこりと顔を覗かせる。
 そしてリュウとキラを見つけて、ぶんぶんと両手を振る。
 ミーナに向かって片手を挙げながら、リュウは訊く。

「おい、リンク。何してんだよ、おまえ……」

「せやから、金欠なんやて。金稼いでるんやないかい。とりあえずこっち来てや?」

「はぁ…」キラが溜め息を吐いた。「どうやら、デートはお預けのようだな」

 そのようだとリュウも溜め息を吐き、電話を切った。
 リンクの出店へと歩み寄っていくと、ミーナが中から飛び出してキラに抱きついた。

「ふみゃあああああああん! キラぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」ミーナが泣き出した。「えぐっ…えぐっ…リンクがおもちゃ買ってくれにゃいぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

「今稼ぐから待ってろ言うてるやろっ!」リンクが苦笑し、「さっぱり売れへんけど……」

「みてーだな」誰も買いに来る気配のないリンクの出店を見て、リュウは言った。「おまえのたこ焼きは美味いことは確かなんだが……、たけーんじゃねーの、値段が。タコ焼き1パック700ゴールドはねーだろ」

「き、金欠やからつい…」リンクが苦笑した。「でも」

 と、隣の店に顔を向ける。

「売れない1番の理由は、その店の影になってしまってるからや」

「なるほど…、たしかに目立つな」

 リュウは納得した。
 こじんまりとしたリンクの出店の隣にある、度派手な店。
 メニューはリンクの店と同様『たこ焼き』に加えて『お好み焼き』、『焼きソバ』、『カキ氷』と豊富。
 そして他の店と何が違うかって、それを売っている人物たちだ。
 リンクがぶつぶつと文句を言う。

「いくら流行ってるからって、おかしいやろ」

 執事の格好をした男たちが調理し、メイド服姿の女たちが客に手渡している。

「たしかに…」

 おかしいとリュウは納得したが、キラは言う。

「おぉ、あれは最近テレビで見たメイド服っていうやつだな。 可愛いな、私も着てみたいぞ」

「そうか。あとで買ってやる」

 そう言ったリュウに、リンクは慌てて言う。

「ミーナの前でそういう会話はやめてやぁぁぁぁ!」

 といっても、もう遅かった。
 キラの胸に抱きついて泣きじゃくっていたミーナが、くるりとリンクに顔を向ける。

「わたしもほしいぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「かっ…勘弁して……!」

 思わず涙目になったリンクだったが、はっとしてキラの顔を見た。
 リュウの顔を見た。
 瞳が輝く。

「こ…これや……!」

「?」

 何を言い出す気かと、リュウは眉を寄せた。
 リンクが店から出てきて、リュウの両手を握る。

「リュウ! 困ったときは、やっぱりおまえやな…! おれ、おまえに出会えてよかったわ……!」

「放せ、きもちわりー」

 リュウはリンクの手を振り払った。
 リンクがリュウに必死にしがみ付いて言う。

「たっ、頼む、頼むリュウ! 店、手伝ってや…! こうなったら隣の店のパクリや! リュウはタキシード、キラとミーナはメイド服。これしかない……!」

「冗談は顔だけにしろ」

「頼むっ…頼む、リュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

「よし、分かった」

 と言ったのはリュウではなく、キラだ。

「キラっ…!」

 リンクの瞳が感動に潤み、リュウの顔は引きつる。

「おい、キラ。何言って……」

「良いではないか、リュウ。楽しそうだ」キラがミーナの涙を指で拭った。「私も今すぐメイド服を着てみたくなったし、ミーナにも買ってあげてほしい。リュウのタキシード姿も大好きだ」

「でも……」

「このお願い聞いてくれたら」

 キラ、ここで笑顔満開。
 トドメの一言。

「今夜はご奉仕しまぁす、ご主人様♪」
 
 
 
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